東急バス株式会社様 事例紹介

健康診断結果や脳・心臓疾患など社員2700人の健康情報管理を効率的に、業務理解のスピードがkintone開発プロジェクトを成功に導く

【課題】バス業界に不可欠な健康情報管理、紙やExcelのアナログ運用からの脱却を目指す

東京急行電鉄株式会社のバス部門が分社化することで1991年に誕生した東急バス株式会社。「ヒューマンに行こう」を社是とし、東急沿線地域における路線バスをはじめ、高速乗合バスや空港連絡バス、路線バス・深夜急行バス、貸切バスなど、用途に応じたさまざまなバス事業を展開しています。バスを利用する顧客に安全・安心な輸送環境を提供すべく、国土交通省が定める運輸安全マネジメント制度に基づき定めた安全管理規程に則り、“安全はすべてに優先”に代表される安全方針や重点施策を制定し、全社一丸となって輸送の安全・快適なサービスを提供するために日々の業務にあたっています。

東急バス株式会社 経営企画室 総務・人事部 次長 兼 社員サポート課長 坂本 嘉万氏

そんな同社では、徹底した社員の健康管理を実施しています。「事故などの有事の際は迅速に社員の健康状態を示す情報を確認することが求められます。国土交通省からの通達はもちろんですが、バスの運行事業を手掛けている企業として、社員の健康管理はしっかり行う必要があります」と坂本氏は健康管理の在り方について説明します。健康管理の内容についても、一般健康診断で定められた項目はもちろんのこと、脳や心臓疾患に関する検査、睡眠時無呼吸症候群(以下「SAS」)のスクリーニング検査などを実施し、問題があれば受診勧奨やその後の改善経過を常に把握するなど、徹底した健康管理が行われています。

東急バス株式会社 社員サポート課 課長代理 村井 敏洋氏

 ただし、検査の結果は紙の診断書やExcelに結果を転記する方法で運用されており、「社員がどんな状態なのか、受診しているのか、次はいつ病院に行くのかも含めて管理しているのですが、全てが手作業によって行われてきました。持病の有無も含めた要管理者リストなども手作りで作成していたのです。さすがにExcelでは限界を迎えていました」と語るのは村井氏です。有事の際には社員の健康管理情報を確認する必要が出てきますが、管理はしているものの、迅速に情報提供できなかった事案も実際に起こっていたと振り返ります。

東急バス株式会社 社員サポート課 保健師 山崎 陽子氏

各営業所に出向いて健康状態に関する面談を行う保健師も、紙ベースで各診断結果を収集したうえで面談者ごとにその都度整理しなければならない状態が続いていました。「12ある営業所ごとに平均200人強ほどの社員が在籍していますが、毎月各営業所を回る必要があり、全ての情報が集まらないケースも。後日改めて連絡したり、その場で別の担当者に情報を確認するなど、面談前後のプロセスそのものにも多くの時間と手間がかかっていました」と保健師 山崎氏は振り返ります。しかも、多くの書類を持ち運ぶ手間がかかるだけでなく、個人情報の塊であるファイルを持ち運ぶことへの情報漏えいリスクもあります。Excelを手入力することでの転記ミスも想定されることから、一日も早い情報基盤の整備が求められていたのです。

【選定ポイント】親会社の開発プロジェクト実績が、遠距離支援に対する不安感を払しょく

東急バス株式会社 社員サポート課 主事 吉田 圭一氏

実は数年前から基盤となるシステムに関する情報収集を行ってきたと語るのは、今回プロジェクトを推進してきた吉田氏です。「当初は健康診断を管理する専門のパッケージを検討しましたが、受診勧奨やその後の経過などプラスアルファの情報までは管理できないものばかり。値段も高く、オーバースペックな面も多かった」。そんな折、同業他社が運行関連業務を主にkintoneを利用していることを社内の情報システム部門から紹介を受けることに。「お話を伺ったところ、kintoneを使って業務部門を中心に自前で業務基盤を構築されたということでした。これなら我々が課題としていた健康管理の基盤として使えると考え、最終的に社内決定した」と坂本氏は説明します。今回のプロジェクト以前に、同社の施設管理をはじめとした他の部署でもkinotne導入を検討した経緯があり、情報システム部門側でもkintoneの存在はよく知っていたのです。実は提案を実施していたのが、アールスリーインスティテュートでした。健康情報というセンシティブな情報をクラウド上で扱うことに関しては、さほど異論も出なかったと語ります。「さまざまなシステムやソフトウェアをクラウドサービス上で稼働させている実態から、その安全性は実証されていると情報システム部門は認識していました。我々業務部門としても、サーバそのものの管理は避けたかったですし、メンテナンスも含めて外部にお願いしたいと考えていたのです」と吉田氏。基盤だけでなく、開発も外部に委託することを前提にサイボウズへ相談したところ、アールスリーインスティテュートが開発パートナーとして紹介されたと振り返ります。ただし、大阪を拠点にしているディベロッパーだけに、やり取りなどの面で不安があったのは正直なところだったと吉田氏。そんな吉田氏の不安を払しょくしたのは、親会社である東京急行電鉄株式会社でした。実は、新規事業の業務基盤をkintoneで構築している話を親会社の担当者から直接聞くことができ、最終的な決断に至ったと言います。「アールスリーインスティテュートが中心となってkintoneを使った業務基盤の開発を行ったプロジェクトでしたが、わずか6カ月で稼働までこぎつけたのは同社のおかげだと評価が高かった。やり取りも今の時代であればいろいろな方法があります。親会社のお墨付きであれば間違いないだろうと判断したのです」と吉田氏は語る。結果として、同社の健康管理基盤としてkintoneをベースに、アールスリーインスティテュートがディベロッパーとして開発を主導することになったのです。

【効果】保健師の負担を大きく軽減、健康情報のシステム化によって好循環を生む

今回の仕組みは、基本的な社員情報を人事システムからkintone内に取り込んだうえで、社員番号とは別に個人に紐づいたユニークな背番号を新たに設定し、この背番号を軸に健康診断情報や脳・心臓疾患、SASに関する検査結果を格納するアプリを作成。健康診断とSASの検査結果は病院からのExcelフォーマットで取り込み、脳や心臓などの検査結果は手入力にてkintone上に格納されます。別途保健師が記録する面談アプリも作成し、全ての情報が保健師カルテと呼ばれる社員マスタアプリで可視化できるようになっています。「転籍によって社員番号が変わってしまうという課題に対して、アールスリーインスティテュートの提案で新たに背番号を設定しました。おかげで、グループ企業内での転籍によって社員番号が変わった場合でも、過去の情報が引き継げるようになっています」と吉田氏は評価します。

「保健師カルテ」で社員ごとの健康診断情報を一元管理

他にも、受診勧奨を行う案内状が帳票出力できる“お手紙アプリ”を作成しており、従来大変時間のかかっていた通知書作成作業が大幅に時間短縮できました。ここでは、手紙を送付した日付や医療機関を受診したかどうかの情報など、疾病に関する経過管理が可能になっています。お手紙アプリによる受診勧奨のための通知書の帳票作成や出力、そして添付ファイルも含めたバックアップについては、アールスリーインスティテュートが手掛けるkintone開発プラットフォーム「gusuku Deploit」が採用されています。帳票の柔軟な変更や本番環境以外にステージング環境を用意できるなど、日々の運用やメンテナンスの部分で大いに役立っています。

<kintoneの「お手紙アプリ」から帳票出力した受診勧奨のための通知書>

今回新たに健康管理の基盤を整備したことで、保健師が行ってきた面談時のカルテ準備や受診勧奨までをつなげる一連のフローが大きく効率化できました。「2700人を超える社員のカルテを作成するだけでも、従来は健診後1カ月以上かけてもExcelに全て転記するのは難しく、健康診断の結果を印字してカルテに貼り付ける作業も含めると膨大な時間がかかっていました。今は健康診断の結果は訪問前にすべてkintone上に格納されていますし、脳や心臓、SASの検査結果も健診後半年間でのフォローには十分間に合います。転記ミスも大きく削減できますし、そもそも転記されていないという事態も避けられます」と山崎氏は評価します。また、面談時に必要な情報を探す手間がなくなり、画面を共有しながら面談者と話が進められるようになったことで、受ける側の納得感も以前に比べて高まっているはずと山崎氏は言います。「過去5年分のデータをkintone上から見ることができるようになっています。経年変化がその場でわかるだけでも参考になると評価いただいています」。予算を考慮した結果、今回kintoneでは健診結果や面談記録を管理することにフォーカスしており、保健師が行う面談の結果を含めて要管理対象を抽出するロジックは、kintoneから出力したExcel上で行う運用となっています。「もちろん健診結果を受けて要管理の方はkintone上で確認できますし、通院状況の確認なのか予防活動の確認でいいのかといった情報はkintone上で見ています。ただし、要管理対象かどうか判断する独自ルールは複雑ですし、状況によっても抽出ロジックが変わってきます。それゆえ今回は別の環境で判定するよう提案いただきました」と山崎氏は説明します。

【成功の要因】ディベロッパーの業務理解のスピードを高く評価

アールスリーインスティテュート プロジェクトリーダー 浅賀

今回プロジェクトがスムーズに進んだ要因のひとつに挙げているのが、アールスリーインスティテュートの業務理解のスピードだと吉田氏は驚きを隠せません。「我々は現場での運用はわかっているつもりでも、具体的な部分では抜けている部分も正直あります。そんなところも含めて遥かに現場の業務を理解していただき、しかも全体像を見据えて提案に落とし込んでいただけたのは驚くべきこと。3次元で情報をとらえて、きちんと整理していただくことができました」と評価します。また、仕様を検討していくなかで膨らんでいく要件を、予算を前提に優先順位をつけ、カットオーバーまでの段階的な道筋もきちんとつけるというプロジェクト遂行能力にも評価の声が寄せられている。

アールスリーインスティテュート クライアントディベロップメント 林

普段健康情報の管理や面談を行っている山崎氏も、業務に合わせて作り込んでいただいたことに感謝しています。「他のツールでは、複数の機能を組み合わせて運用に近づけるというやり方でしたが、それでは実際の業務とは異なる部分が出てきますし、他の保健師にも説明するのが難しくなります。今回はきちんと業務に合わせて作り込んでいただくことで、現場にとって最適な仕組みとなっています」。しかも、打ち合わせの段階でプロトタイプを持ち込んだことで、実際の画面からイメージのすり合わせができたと言います。「あるアプリから面談情報に遷移したほうがいいと提案を受けたことがあり、その時は半信半疑だったのです。しかし、実際に運用に入るとすごく便利だということが実感できました。自分より業務が分かっていると驚いたほどです」と山崎氏は評価します。なかでも吉田氏が想定以上に感心した事は、これまで紙で管理されてきた情報の取り扱いです。「面談記録や健診結果など過去の情報も確認できるようにしたいと考えていたのですが、おそらくPDF化したものを土日に出勤して手作業で入れ込まないといけないと覚悟していました。そこでPDF化した情報を一気に取り込む方法を教えていただき、データ移行も手間なく行うことができたのです。kintoneの経験が豊富だからこそ、すぐにアイデアをいただくことができました」と吉田氏は評価します。

【今後】服薬情報など健康管理に必要な情報をさらに追加、健康経営にも役立つことを期待

今後については、作成したアプリを使った運用を安定させていきながら、管理できてない項目も含めて拡張させていきたいと吉田氏は語ります。「視機能検査や休業者リストである衛生月報など、まだkintone上で管理できていない項目は今後増やしていきたい。また勤怠管理と連携することによる残業時間の可視化や、社員が服薬している薬の情報なども同じ基盤の中で管理できればと思っています」。また現在は保健師がすべての情報を入力していますが、営業所にいる管理職などでも現場の状況を入力できる環境づくりにもいずれ挑戦したいと言います。開発パートナーとしてのアールスリーインスティテュートにも、引き続き支援をお願いしたいと吉田氏。さらに、kintone内で収集された情報をもとに分析を行い、健康に関するケアをより充実させていきたいと村井氏は語ります。「運輸業界では人手不足が叫ばれています。疾病で休んでいる人を適切にケアしながら復職に向けた道筋を作っていきたい。そのための基礎情報として活用できればと考えています」。ほかにも、健康状態の可視化を通じて働きやすい環境づくりへの取り組みを見せていくことで、採用活動にも役立てていきたいと言います。「健康経営などがキーワードとなっており、社内で今まさに取り組み始めているところです。その1つに社員の健康管理が位置付けられています。kintoneは業務効率化に寄与するツールだからこそ、働き方改革にも大きく役立つもの。働きやすい職場づくりが、採用の面にもいい効果を生んでくれることを期待しています」と今後について坂本氏に語っていただきました。