株式会社ThreePeace様 事例紹介

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「ITは道具。人に寄り添う仕組みが、1500件の現場を救った」― 属人化から脱却したThreePeaceの挑戦

株式会社ThreePeace
代表取締役 坂本 将平 様
大島 徹 様
山面 遼馬 様

株式会社ThreePeaceは、アスベスト調査・除去・処分を行う企業です。幼いころから「社長になりたい」という思いを抱いていた坂本氏は、まずとび職人として現場経験を重ねました。その後、管理業務や経理支援を通じて経営の実務に触れ、30歳手前で独立を決意。前職で商工会議所や中小企業診断士の支援を受け、経営計画を立てた経験を生かし2006年に個人事業で創業、およそ1年後に法人化しました。現在は15名の社員とともに、アスベスト工事に関わる多様な業務を展開しています。

同社が掲げるのは、「3つのPeaceで笑顔あふれる世界を創造する」という経営理念です。Peace of families(従業員とその家族)、Peace of yours(顧客や協力会社、地域社会)、Peace of the world(より良い社会づくり)という3方向すべてを大切にする姿勢が、日々の業務や新規事業にも息づいています。

創業以来、アスベスト除去工事を中心に信頼と実績を積み上げてきた同社ですが、近年の法改正を受け、アスベスト事前調査や分析など上流工程のコンサルティングにも注力するようになりました。工事や調査現場では同社従業員と協力業者と連携し、社内では法的要件の理解や書類作成、進捗のマネジメントなどを担う体制を整えています。

工事の案件管理を目的に2016年頃からkintoneを導入していたものの、当時はExcel中心の業務スタイルが根強く、活用は進みませんでした。アスベスト調査業務を立ち上げたことを機に、情報管理や書類作成の効率化が急務となり、より柔軟な機能を求めてgusuku Customine(以下、カスタマイン)も導入。kintoneの本格的な活用が始まりました。今回は、その経緯や効果について、坂本氏、大島氏、山面氏の3名にお話を伺いました。

課題:属人化と情報の分断。見過ごされていたリスク

課題をはっきりさせないことが、課題だったんです。情報も分断され、業務は人に依存していました。でも、大きなミスはなかったので、リスクを抱えながらも見過ごされていたんですよね」と坂本氏は振り返ります。

坂本氏

kintoneを導入したのは2016年頃。経営者向けの会合で存在を知り、システム開発会社の支援を受けて初期構築を行いました。「自分流に作れる」「シミュレーションゲーム感覚で面白い」と坂本氏は感じていました。しかし当時の社内では、DropboxとExcelを組み合わせた属人的な管理が根づいていました。関数やマクロを駆使して現場の進捗から経理・総務までカバーし、「新しいことができなくなるからパッケージシステムは使わない」という方針のもと、自作の仕組みで対応していました。部長をはじめ多くのメンバーがExcelに慣れ親しんでいたため、kintone導入後もしばらくは活用が進みませんでした。

案件管理の進捗は担当者ごとのExcelで管理され、請求書作成や法令対応も個人の判断に依存。全体を俯瞰する仕組みはなく、属人化が進んでいました。ただ、当時は年間80件ほどの工事案件で目が届いていたため、「このままでもなんとかなる」という空気が漂っていました。

kintone活用への転機:法改正の動きを即座に捉えた判断

アスベストに関する法改正で、「国のチェック機能」がない事前調査が、4年後には「国内でおこなわれる一定規模以上の全ての工事」で「電子による事前調査報告」が義務化される方向へ。この通達をいち早くキャッチした同社では、この段階で調査事業への本格参入を決断しました。

迅速に動けた背景には、もともと社内に根づいていた法令対応力の高さがあります。
坂本氏を中心に、必要な法律を自ら調べ、通達や制度変更があれば即座に役所に確認に出向く。そうして得た正確な情報をもとに、書類や業務フローを構築してきました。この姿勢は除去工事の段階から信頼を積み重ね、「安心して任せられる会社」としての評価につながっています。

調査業務は従来の工事に比べて1件あたりの対応期間が短く、件数も多くなることが見込まれました。工事では対応に数週間〜数か月を要することもありましたが、調査では現地確認から分析・報告書作成までを、およそ2週間で完了させる迅速さが求められます。同時並行で数多くの案件を正確に処理するため、業務の仕組み化が急務となりました。

そこで同社は、kintoneで案件情報を一元管理し、進捗の見える化やチェックリストによる業務の標準化に取り組み始めます。調査業務の立ち上げと並行して、アプリ作成と業務フローの整備を進めました。

カスタマイン導入:理想の仕組みをひとつで実現!

調査業務の立ち上げにあたり、同社が目指したのは「ボタンを押せば形になる」ような、誰でも使える・ミスのない業務システムの実現でした。業務もシステムもゼロから構築をはじめ、まずはkintoneの基本機能にプラグインを追加して必要な機能を補完しました。画面設計や入力手順についても、実際に業務を担う事務スタッフや社員が使いながら、「ここは入力ミスが起きやすい」「もっとわかりやすくできないか」といった改善案を出し合い、一つひとつ丁寧に調整していきました。

しかし、プラグインが増えるにつれ、「それぞれに問い合わせ先が違う」「設定が複雑で管理しきれない」といった課題も浮き彫りになってきました。一時は十数万円分のプラグインを組み合わせていましたが、管理負担の限界を感じたタイミングで出会ったのがカスタマインでした。

カスタマインは、複数のプラグインで実現していた機能をひとつのサービスでカバーでき、設定を一元管理できるため運用負担が軽減しました。改善の自由度も高まり、業務の標準化と効率化を同時に実現しました。
「特定の課題があったわけではなく、ミスのない、人に依存しない仕組みを最初から目指していたんです。ITはあくまで道具。それを扱える力自体を強みにしたいとも思っていました」(坂本氏)

活用アプリ:正確・スピーディな調査業務を支える、徹底的なカスタマイズ

同社の調査業務は、顧客からの問い合わせを起点に始まります。検体採取の日程を調整し、現場で建材からサンプルを採取します。その後、採取した検体を分析会社へ依頼し、分析結果を共有してもらいます。こうして集まった情報をもとに最終的な報告書を作成し、顧客へ提出するのが一連の流れです。途中には見積書作成や進捗管理といった事務作業も行われ、調査業務全体が円滑に進むよう整えられています。

調査案件管理アプリ:受注前から完了までを一元管理

調査業務の起点となるアプリで、受注・未受注を問わず、問い合わせ時点で1件1レコードを作成します。案件ごとの進捗や必要書類をすべてこのアプリで管理しています。

顧客情報はカスタマインでルックアップ取得を自動化。通常は「取得」ボタンをクリックしてしますが、この設定により手動操作なしで自動取得できます。案件ごとに必要となる情報を、入力の手間なく正確に登録可能にしました。
調査業務においては、顧客によって分析を依頼する会社が異なります。そのため、入力内容に応じて分析会社が自動選択され、選択ミスを防止。さらに自動選択後は必ず目視でチェックする必要があり、未チェックの場合はエラーダイアログを表示します。スピードを保ちながら、確認漏れゼロを実現しています。

<分析会社が未チェックだと、エラーダイアログが表示される>

画面は「報告書作成情報」「見積・請求管理」「顧客情報」など複数のタブで構成し、目的別に情報を整理しました。必要な情報をタブで素早く切り替えながら確認できます。

<タブ分けすることで必要な情報にすぐにたどり着ける>

案件登録時にはLINE WORKSの該当グループに通知が届きます。メールよりも見落としが少なく、現場と事務の連携がスムーズになりました。保存後は「見積作成」などのボタンが表示され、後続処理にすぐ着手できます。

<保存後はボタンから次の処理にすぐに着手できる>
<案件登録時にはLINE WORKSに通知が届く>

これらの機能はすべてカスタマインで実装され、設定内容は68ページに及びます。属人化しやすい進捗管理を、誰でも同じ手順で進められる業務の中核システムとして確立しています。

<カスタマインの設定の一部。徹底的にカスタマイズされている>

見積作成アプリ:5分で誰でも正確な見積書を作成

調査案件は見積作成の頻度が高く、スピードと正確さが不可欠です。そこで、案件管理アプリと連携する「見積作成アプリ」を構築しました。
案件情報を引き継ぎながら、検体数や採取方法、地域ごとの出張費などを入力します。そのうえで「初期セット」ボタンを押すと、サービスメニューや品目のパターンがテーブルに自動で展開されます。ゼロからの入力を省き、作業の立ち上がりをスムーズにします。

<「初期セット」ボタンを押すと、テーブルにパターンが自動で展開される>

エリア別出張費を管理する「出張金額マスタ」、ルックアップの絞り込み機能、カスタマインによる自動入力・自動制御を組み合わせ、入力効率と精度を向上させました。さらに、見積条件確認のチェックが未入力の場合はエラーメッセージを表示し、案件管理アプリ同様に、ミス防止を徹底しています。

シンプルな案件なら約5分で見積書が完成。ExcelやPDF出力にも対応し、案件数が多い調査業務でもスピードと品質を両立できる体制を実現しました。

報告書の作成:写真・分析データをワンクリックで帳票に!

調査の最終工程である報告書作成も、正確さとスピードの両方が求められる重要な業務です。
情報は「分析依頼アプリ」に集約され、協力会社が直接kintoneに調査結果や検体情報を入力します。これによりやりとりの手間を減らし、リアルタイムで正確なデータ共有を実現しました。入力フォームはカスタマインで設計し、現場・協力会社双方の負担を軽減しています。

分析結果の入力は、建材ごとにテーブルへ登録。内容が類似する場合(天井を床に置き換えるだけなど)は「テーブルコピーボタン」で複製し、入力作業を大幅に短縮します。さらに、分析会社ごとに「直送」か「引き取り」かなどの条件で色分けして表示し、ひと目で把握できるようにしました。

現場で撮影した写真など、必要な情報をすべてkintoneに集約。最終的な報告書は、案件情報、分析結果、現場写真をすべて反映し、帳票出力機能によってワンクリックでPDFになります。担当者の資格情報や調査種別に応じた情報も自動で挿入されるため、多数の案件でも抜け漏れなく、短時間で完成させられる体制を実現しています。

<報告書がPDFで出力される>

効果:属人化を脱却!3名で年間1500案件をまわせる体制へ

調査業務の立ち上げと同時に、kintoneとカスタマインによる仕組み化を進めました。その結果、年間1500件にのぼる案件をわずか3名で処理できる体制が整いました。新規業務ながら正確さとスピードを両立できた背景には、綿密な業務設計と現場に寄り添った改善の積み重ねがあります。

「アスベストの調査は法律が関わる業務なので、確認漏れや記載ミスは許されません。特に事務側で起こりうるミスは、仕組みで極力防げるようにしておきたかったんです。誰かの記憶や注意力に頼るのではなく、ちゃんとチェックが通った状態をつくり、安心して業務を進められるようにしたかったんです」(坂本氏)

導入当初は坂本氏がアプリの設計・構築をリードしていましたが、現在はそのバトンを受けた大島氏や山面氏が日々の改善・運用を担っています。
大島氏はこれまでExcelを中心に業務を行ってきたものの、kintoneやカスタマインは未経験の状態から学び始めました。
「Excelしか触ってこなかったので、kintoneやカスタマインは未経験でした。でも、既存のアプリや設定を見て『こうなってるんだな』って真似して、コピーして、自分なりに組み替えて…。触っていくうちにできるようになってきたんです」(大島氏)

大島氏

山面氏はkintone経験を持って入社し、まずは複雑化しすぎたカスタマイズの整理から着手。カスタマインを習得し、アプリ改善や運用体制の整備など幅広い業務を担うようになっています。
「カスタマインも、やってみてダメなら直せばいい、という感覚でやってます。現場の作業も見ながらなので時間は限られますが、自分たちのペースで進められています」(山面氏)

山面氏

こうして坂本氏が現場運営から手を離しても業務が回る仕組みが整い、経営や新規事業の展開に専念できる環境が生まれました。
「ITを活用してここまで来られたからこそ、事業計画もちゃんと数字で立てられるし、新しいことにもチャレンジできる余地ができました。もしkintoneとカスタマインがなかったら、この事業はここまで広げられなかったかもしれません。今後もこの仕組みを土台に、事業拡大と業界の変革に挑んでいきます」(坂本氏)

今後の展望:現場発のIT活用で業界全体の進化を後押し

体制が整った今、次に目指すのは自社の取り組みを業界全体に広げていくことです。
事業拡大にともない新たな取引先も増え、現在では解体業界や建設業界の安全大会(現場での安全意識を高めるイベント)や異業種交流会など、外部イベントでセミナー登壇する機会も増加しています。同社の業務改善やIT活用に関する取り組みは、同業他社や関係企業から注目を集めています。

その原点には、坂本氏の原体験があります。とび職時代、現場の親方たちにパソコンの使い方を教えていた頃から、ずっと「仲間の役に立ちたい」という思いを大切にしてきました。自社での経験が誰かの役に立つのなら惜しまず共有し、業界の仲間たちにも元気を届けたい。そんな思いで、少しずつ活動の幅を広げています。

法律やITに関する制度の変化はめまぐるしく、人手不足も深刻化するなか、その波についていけない企業も少なくありません。だからこそ同社は、専門家ではなく現場の視点から、仲間と共に歩める仕組みづくりを模索し続けています。
「昔、エンジニアに『ITとはこうあるべき』と押しつけられたことがあって。でも本来ITは、現場が『こうしたい』と思ったことを形にするもの。だからこそ、自分たちの手で実現していこうという姿勢を、これからも変えずにいきたいんです」(坂本氏)

坂本氏

また同社では、仕組みと人材がともに成長できるよう、全員が使いこなせるペースで運用を進めてきました。仲間と一緒に考え、現場に根ざした業務改善を積み重ねていく姿が、結果として外部からの信頼にもつながっています。

これからも株式会社ThreePeaceは、「笑顔あふれる世界を創造する」という理念のもと、ITを武器に自社の成長と業界全体の変化、どちらも後押しする存在を目指して挑戦を続けていきます。

取材2025年7月