医療法人社団双愛会様 事例紹介

CRM導入に失敗したクリニックが2年かけてkintoneとgusuku Customineで患者と家族に安心してもらえる仕組みを構築できたワケ

医療法人社団双愛会 事務局長 清水 雄司 様

 医療法人社団双愛会は東京の城南地区で在宅医療サービスを展開しているクリニックで、医師や看護師たちが訪問診療や訪問看護を行っています。創業は2005年で、医師や看護師の他に理学療法士や作業療法士、ドライバーなど多数の職種の方が在籍しており、現在の従業員数は約100人となっています。

 在宅医療は多数の関係者と連携して仕事を進めますが、その際に課題となるのが情報共有です。双愛会ではExcelやAccessでの運用に限界を感じ、紆余曲折を経てkintoneの導入に至りました。

 患者を管理するアプリを作るという当初の目的を果たし、他の業務にも広げようと現場の要望を集めたところ、標準機能では対応できないことが判明。gusuku Customineを導入し、浸透に成功。大きな業務改善効果を得ることができました。

 今回は、2年間にわたるkintone導入プロジェクトを成功に導いた経緯と得られた効果を医療法人社団双愛会 事務局長 清水雄司氏に伺いました。

医療法人社団双愛会 事務局長 清水雄司氏

課題■CRMシステムを安易に導入して活用に失敗してしまった

 双愛会の創業当時は訪問医療の黎明期で、創業者の伊谷野克佳氏は1人でなんでもやっていたそうです。訪問診療だけでなく、自分で運転をしたり、ホームページを自分で立ち上げたりもしていました。地域に訪問医療のニーズがあったので、創業後1年半にわたって右肩上がりに患者が増えていきました。

「そうすると問題が出てきます。在宅医療は24時間365日、急変時に求められたときに出動する必要があります。最初は1人で頑張っていたのですが、1年半が過ぎた頃、体が動かなくなってきたそうです。そこで、これはまずいぞ、と考えました。自分が倒れてしまうと、患者様の対応ができなくなってしまうからです」(清水氏)

 自分が頑張りすぎたために、地域に迷惑をかけてしまっては本末転倒です。そこで伊谷野氏が1人で何でもこなすのではなく、他の職種も交えて、チームで取り組んでいくという戦略に転換しました。そこで、ずっと抱えてしまった課題が情報共有だったそうです。

建物, 人, 屋外, 男 が含まれている画像自動的に生成された説明
伊谷野理事長は創業当時、一人で何でもこなしていました。


 今まで、伊谷野氏が頭の中で処理できていたことを、複数名体制になったことで、わざわざ他のドクターに聞いたり伝えたりしなければなりません。そこで、患者に関するデータベースを作りたいと考えたそうです。患者自身の医療に関わる情報は電子カルテで管理しますが、患者に関係する事業所の情報を管理することができませんでした。在宅医療という業界は、集患経路が地域の事業所の紹介で成り立っているというのです。

 スムーズに事業を行うためには、患者だけでなく、病院の地域連携室やケアマネジャーといった医療・介護の従事者たちの満足度も高める必要があります。そこでExcelで管理しつつ、伊谷野氏は独学でAccessでの運用にもチャレンジしたそうです。しかし、ITの専門家ではないので、うまくいきません。

 そんな状況が10年近く続いた2016年、伊谷野氏は清水氏と出会います。会話の中で、データベースソフトについて質問されたため、清水氏は当時働いた企業で使っていた外資のCRMシステムを紹介しました。雑談ベースで紹介したのですが、「まさにこういうことをやりたいんですよ」と導入することになったのです。

 電子カルテでは患者のことは調べられますが、患者を紹介した人が誰なのか、という調べ方ができなかったそうです。例えば、ケアマネジャーのAさんが紹介してくれた患者さんの一覧を出すことができなかったのです。

 そこで清水氏がベンダーを紹介し、導入プロジェクトがスタートしました。清水氏は当時は別の会社で働いていたので、外部から見ているだけでしたが、どうにも双愛会側とベンダー側の話がかみ合わないように感じたそうです。そしてしっくりこないシステムができあがり、与えられた従業員はぽかんとしてしまいました。

「CRMの導入プロジェクトが失敗したということがわかって、私としても責任を感じてしまいました。中途半端にアドバイスして紹介してはいけないな、と反省しました」(清水氏)

 プロジェクトがうまくいかないと聞いた段階で、清水氏は前職のエンジニアと飲みに行き、相談しました。すると、kintoneの画面を見ながら紹介してもらい、これならばと膝を打つことになります。

 清水氏はその2年後の2018年に双愛会に入社することになります。早速システムを見てみると、データがぐちゃぐちゃに入っている状態だったそうです。入力の規則が定まっていなかったことが原因です。そのため、出力して活用するというフェーズにまで至っていませんでした。

 その時にはkintoneのことを知っていましたが、CRMシステムにはすでに多額の投資をしています。清水氏は可能であれば、引き続き使おうと考え、メーカーに相談しましたが、ベンダーに言ってくれの一点張り。ベンダーはすでに納品後2年経過しているので、前回と同程度以上の費用がかかるとのことです。

「そこで、kintoneの無料試用を使い、自分で患者の管理アプリを作ってみました。kintoneの導入相談カフェや電話サポート窓口で相談しながらチャレンジしたところ、できてしまいました。これは行けるなと思って、伊谷野理事長に話してkintoneのライトコースを導入することにしました」(清水氏)

導入■kintoneを活用してもらうため、利用する人に徹底的に寄り添った

 アプリはできたのですが、現場はすでにCRMシステム嫌いになっていました。そこで清水氏はkintoneアプリを使って見せて、入力していくとどんなことができるか、というのを繰り返し伝えました。少しでも触ってもらえたら、すぐにフィードバックし、声をもらったら即対応し、大げさなほどお礼を言いました。自分自身でも不安を抱えながらプロジェクトを進めていたので、とにかく動いたそうです。

「コロナの前は地域連携会のような普段、医療介護連携をしている事業所との集まりがありました。アプリは完成して、誰が患者さんを紹介してくれたのかがわかるようになっていましたが、ひとりスマホを見ないで紙のメモを見ている人がいたのです。そのメモを見せてもらったら、アプリのフィールドにない「連携主治医」という情報が書いてあります。我々が接触しているのは看護師でしたが、患者が在宅適用なのか判断するのは指示を出すドクターだったのです。なるほど、と翌日にアプリを修正し、データを流し込んだところ、「これ、いいですね!」と喜んでもらえました。これがkintoneの力だ、と感動しました」(清水氏)

 とは言え、現場からいろいろな要望が寄せられ対応するうちに、kintoneの標準機能では限界があると感じていました。例えば、ルックアップを使う際、マスターアプリのレコードを修正した時に別アプリのフィールドを自動的に更新できなかったことが課題でした。

 清水氏はいろいろと調べた結果、gusuku Customineであれば何とかできるかも、と感じていました。しかし、連携サービスを導入するためにはコストがかかりますし、スタンダードコースにアップグレードする必要もあります。

 ちょうど2019年の「Cybozu Days」の時期だったので、清水氏は伊谷野氏と一緒に参加しました。そこで医療業界の人のセッションに参加したところ、ずっと自分たちがもがいていた課題を数年前に解決している事例が紹介されており、目からウロコが落ちたそうです。早速kintoneをスタンダードコースに切り替え、プラグインの導入することにしました。

「最初はコストを考えてお手頃価格のプラグインを使ってみたのですが、理事長からの多くの要望に耐えきれないように感じて、gusuku Customineにすべきだと考えました。そこで、kintoneの資格試験を受けて合格し、その上でR3さんのセミナーに参加し、理事長にプレゼンしました」(清水氏)

 その結果、gusuku Customineを導入することになったのです。最初は操作をマスターするために時間がかかったそうですが、第1の目的だったルックアップの自動更新はすぐに実現できました。フィールドが増えて縦長になったアプリにタブを導入したり、コメント欄を閉じたり、検索画面を作るといったカスタマイズにもチャレンジし、複数のExcelファイルで扱っていた情報を集約できました。

縦長の画面をタブで切り替えて見やすくしました。


「患者さんの生年月日を入れると年齢がわかるようになったのもすごく助かります。医療事務では年齢により医療費が変わるというような条件があります。他には、郵便番号を入れれば住所を途中まで出してくれるなど、入力の手間を省けるようになったのがありがたいところです」(清水氏)

 データをばらつきなく入力してもらうためには、吹き出しヘルプを利用しました。例えば「重症度」を入力する際、ユーザーが「?」をクリックすると、定義が表示され、間違った選択肢を選ぶのを回避できるようにしたのです。現場の人が迷わず入力できるようにサポートを充実させました。

吹き出しで正確に情報を入力するサポートします。


 ビジネスコミュニケーションツールとしては「Google Chat」を導入しているのですが、kintoneでレコードを保存した時に「gusuku Customine」の機能で必要な情報を自動通知させるようにしました。

 患者から連絡を受け、緊急出動する必要がある場合に、主治医や関係者にとりあえず知っておいて欲しい情報を通知できるようになったのです。従来は電話で行っていたのですが、kintoneとGoogle Chatを連携させることで、救急受付1人当たりの作業時間が月間32時間から10時間へと3分の1以下になりました。二重入力する手間がなくなったうえ、転記ミスもなくなりました。

「この自動通知の開発時間は10分です。アイディアをすぐにカタチにできるのがkintoneのすごいところです。このおかげで、業務のメリハリがつくようになり、次の出動へ向けた準備に時間を使えるようになったそうです」(清水氏)

gusuku CustomineでkintoneとGoogle Chatを連携させました。

 以前使っていたCRMサービスと比べると全体の開発費用は3分の1以下、アプリ数は10倍以上となりました。gusuku Customineなどの連携サービスの利用料込みでも、費用対効果は抜群で満足されているとのことです。

 在宅医療クリニックを運営する上で大切にしていた指標である「患者の自宅でのお看取り数」も前年比で170%に増えました。緊急往診するチームがバックアップをすることで、主治医が集中できる環境を整えることができ、ベストを尽くせるようになったそうです。ご要望に合わせて、可能な限り自宅で診療するマインドが醸成され、患者やその家族も安心できるようになりました。そのおかげで「これだったら頑張って最後までお看取りします」と言ってもらうことが増えたそうです。

「私がばりばり開発してやるぜ、ではなく、現場の困っている声に合わせて対応している感じです。そのために、とにかく現場の意見を聞きに、チャットのグループを作って、何でも聞いて下さいと言いました。何回同じことを聞かれても、とにかく優しい対応をするように心がけています。実際、kintoneを活用してもらえるだけでも嬉しいのです。「あ、こういうことを言ってもいいんだ」と、心理的なハードルを下げるようにしました」(清水氏)

 最後に今後の展望をお伺いしました。

「この4年間に感じていた課題は、他のクリニックでも絶対に抱えていることだと思います。できればkintoneを活用し、みんな楽して在宅医療の本来やるべきコトに集中してほしいです。我々としては、今後は外部の関係者とも情報連携していきたいです。相手がkintoneを使っていなくても、Google Chatを活用すれば実現できるのではと考えています。他にも、訪問看護など他の領域でも活用していきたいですね」と清水氏は締めてくれました。

貴重なお話をありがとうございました。

取材 2021年9月