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全社員が業務改善の担い手に。現場に根付いたカイゼン文化


MONOVATE株式会社
経営管理部 業務推進課 浪岡 喬臣 様
MONOVATE株式会社は、1957年に家庭用ステンレス製品の製造を目的として、日東金属工業株式会社として設立されました。その後、医薬品・化粧品・食品・化学品などの製造業向けに、産業用ステンレス容器や機器類を設計・製造・販売しています。2024年にMONOVATE株式会社に社名を変更しました。
「モノづくり開発企業」をパーパスに掲げ、お客様の要望に合わせた製品開発を通じて、多様化するモノづくりの現場を支えています。
埼玉県八潮市と茨城県つくば市に工場を持ち、八潮工場では特注品の生産と営業などの事務所機能を、つくば工場では主に規格品や量産品の生産を行っています。
2000年から基幹システムは導入されていたものの、製造業務では紙やExcel・Wordも多く使われていました。このデジタル化を目的につくば工場で2019年にkintoneを導入、約1年後の2020年には全社利用を開始しました。
また、営業部門では別のシステムを導入していましたが、これをkintoneに集約した結果、より柔軟な機能が必要となり、2023年にgusuku Customine(以下、カスタマイン)を導入しました。
今では各部署にkintoneとカスタマインを使いこなす社員がいて、次々に業務改善を進めています。その経緯と効果について、MONOVATE株式会社 経営管理部 業務推進課 浪岡喬臣氏にお話を伺いました。

課題:紙・転記・パソコンの順番待ちによる非効率
同社では2000年に基幹システムを導入、2009年にリプレースをして使用していました。この基幹システムはパソコンかつ、社内ネットワークからのみアクセスが可能です。
基幹システムで業務のすべてを完結することは難しく、ExcelやWordでの管理、紙ベースの運用も多く残っていました。
製造部門では、パソコンは1人1台ではなく共有パソコンを使用していました。そのため、一日の作業内容を紙にメモし、終業間際に共有パソコンで基幹システムに転記する作業が発生していました。
「定時が近づくと、製造部門のみんなが共有パソコンで作業記録を入力しようとします。紙から転記するのは面倒ですし、共有パソコンは台数が限られているため、順番待ちが発生するなど非効率でした」(浪岡氏)
さらに、カイゼン提案書、工程検査記録や不具合連絡票など多くの社内フローが紙で行われていました。
これらの課題解決のため業務のデジタル化を決め、2019年につくば工場で簡易な業務システムを作成することにしました。そこで検討したのがkintoneです。kintoneは汎用性が高く自社でアプリが作成できますし、費用も手頃であったため選定されました。
kintoneの導入:小さなアプリから始め、現場発で全社展開へ
浪岡氏の上司が中心となり、2019年夏にkintoneの無料トライアルを開始。翌月にはライトコースを少人数で契約し、つくば工場ではタブレットを配布しながらテスト運用を始めました。
基幹システムより受注データを取り込み、受注データに紐づけた作業記録を入力できるようにしました。
テスト運用を進める中で、kintoneの可能性や活用の方向性が見えてきたことから、つくば工場ではさまざまな業務プロセスの置き換えを視野に入れ、本格導入に向けた方針を固めていきました。
工程検査記録やトラブル報告書、物品購入依頼書、届書(残業等)など、紙ベースで運用していた各種業務をkintoneでデジタル化することを決定し、対応を進めていきました。
こうしてテスト運用を経た後、数か月後にはつくば工場の40名が利用するようになりました。
将来的なプラグインや連携サービスの利用も見据え、このタイミングでスタンダードコースへ移行しています。
「最初は『何の意味があるの?』『ログインが面倒』といった抵抗感や不満の声が多数でした。さらにテスト期間だったため、基幹システムとkintone両方に作業記録を入力することも負担といった声が挙がっていました。そこで、まずは毎日必ず発生する業務をkintoneアプリにすることで、日常的にkintoneに触れる環境を整えました。具体的には、お弁当注文や掃除当番といったアプリを作成し、報告書など紙で運用していたプロセスをkintoneへ置き換えました。その結果、つくば工場における社内業務のDXが進みました」
2020年7月には、つくば工場での成功を受け全社利用へと踏み切りました。
作業記録の基幹システムとkintoneへの並行入力は、全社員が正しくkintoneに入力できるようになった段階で完全廃止しました。
kintoneを定着させるため、各部署に1名以上のkintone担当者を配置し、隔週で事例発表会を開催しました。
「つくば工場は設立間もなく(2018年設立)、運用をこれから決めていく段階だったのでタイミングが良かったんだと思います。また、若手社員が多くデジタルツールへの適応力が高い一方、ベテラン層が業務の指導役として支える体制でした。ベテランは業務を教え、デジタルは若手がフォローする関係ができて上手くいきました。もともと経営層がIT導入に積極的だということに加えて、現場からカイゼンのアイデアが出てくるボトムアップでのカイゼン文化も根付いていたため、スムーズに導入が進みましたね」
一方、営業部門では外出先でアクセス可能な別のシステムを使用し、顧客管理や案件管理を行っていました。営業報告書はkintone、顧客管理や案件管理は別のシステムと、徐々に並行運用が課題となっていきました。
このシステムは、営業部門では顧客や案件に関する情報を一通り閲覧できましたが、製造部門のアカウントでは閲覧できる情報が限られており、部門間で情報の非対称性が生じていました。製造部門も閲覧可能な方法で共有すると、権限の問題で顧客情報に紐づけることができません。そのため、必要な情報を探しにくく見落としも起こりやすい状況で、情報の活用に支障がありました。
「当時私は営業部門の所属で、このシステムの管理もしていました。問い合わせなどの情報は営業部門の人しか見えない仕組みだったため、必要な内容は製造部門にも見える場所に共有するようにしていました。ただ、共有された情報が顧客データに紐づかないこともあり、整理や活用がしづらいと感じることがありました。しかし、検索できるから問題ないという認識のまま運用されていたため、情報が紐づかないことによる非効率さが、あまり問題視されていませんでした」
カスタマインの導入:属人化とプラグインの課題を一気に解決
kintoneの導入当初からプラグインを積極的に調べたり活用したりしてきたため、カスタマインにも以前から注目していました。ただし、導入するならば限定的な利用ではなく全社的に活用したいという思いがあり、年額1000(1000アプリにカスタマイズできる)プラン以外の選択肢は考えていませんでした。そのため、コストの面でいったんは見送っていました。
導入を見送っていたものの、営業部門で利用していた案件管理・顧客管理のシステムは、情報共有の面で非効率なだけでなく、学習コストが高く管理が属人化してしまう課題がありました。
「営業のシステムは、私が一人で管理していて他に設定できる社員はいませんでした。この管理の属人化や情報の非対称性、システムの並行運用を解消するため、顧客管理・案件管理もkintoneに統合しました。情報の非対称性やシステムの並行運用は解消されたものの、必要な機能を実現するためにはJavaScriptでのカスタマイズが不可欠でした。結果的に属人化の問題は解決できなかったんです」
案件管理・顧客管理の基盤が整いつつある一方で、受注業務には依然として構造的な課題が残っていました。
従来どおり受注登録を基幹システムで行っていたため、kintoneに登録されている顧客・案件情報を再入力する必要があり、手間がかかる上に転記ミスのリスクもありました。
また、受注後の業務指示では、要件の変化や業務ごとの細かな情報に柔軟に対応する必要があることから、kintoneによる補完体制を採用していました。この運用では、基幹システムの受注データを5分おきにkintoneに取り込み、受注番号と紐付けて管理できるようにしていました。
しかし、この仕組みではデータ連携にタイムラグが生じるため、業務フローが途切れやすく、現場にとっては大きなストレスとなっていました。
これらの問題を解消するため、kintoneで受注入力を完結させようと考えました。kintoneで完結できれば基幹システムへ転記する作業を減らせますし、業務フローが分断されることもなくなります。しかし、この実現にもカスタマイズは必須です。
受注業務の課題に限らず、kintoneの活用が進む中で基本機能では対応しきれない要望も増え、プラグインが150程導入されていました。各部署のkintone担当者からはどれを選ぶべきかわかりにくいといった声が挙がったり、プラグイン同士が競合して動かなかったり、管理も煩雑になったりとさまざまな問題が起きていました。
JavaScriptでの開発による属人化を避け、大量のプラグインの問題を解消するため、カスタマインの導入を検討。全社で安定的に活用できる体制を整えるべく、年額1000プランで導入を決定しました。
活用:費用対効果・問い合わせ・名刺…業務の細部までカイゼン
カスタマイン導入後は、各部署で活用が広がっています。
展示会費用対効果アプリ
マーケティング部門では、展示会の費用対効果アプリを作成して活用しています。
このアプリでは、各レコードに展示会の内容、結果、その展示会から発生した商談を一覧で見られるように管理しています。
集客数や新規の数、商談や金額が入力されていて、ボタンを押すだけで案件数・金額・成立金額が集計できます。
この集計結果をもとに展示会への出展計画を立てています。
カスタマインでカスタマイズをする前は、集計の仕方を完全に理解しているメンバーでも1回の集計に15分程度はかかっていましたし、手動のため集計ミスのリスクもありました。
さらに展示会後、しばらく経ってから案件化することも多く、何度も集計するためその度に時間がかかりました。
以前は最低15分はかかっていた集計作業が、現在は誰でもボタン一つで完了します。数秒で完了し、ミスなく最新の数値をすぐに確認できるようになりました。



問い合わせ管理アプリ
部署を横断する業務や全社で利用するアプリは業務推進課が中心となって作成しています。
このうち、社内の各部署から業務推進課へ寄せられる問い合わせを管理するアプリでも、カスタマインが活躍しています。
以前はkintoneのスレッド、メール、電話など手段がバラバラでやり取りが煩雑になりがちだったため、完了後のフィードバックまで一元管理できるようアプリ化しました。
カスタマインの入力ダイアログを使用して、対応完了後にフィードバックできるようにしました。入力ダイアログでは、依頼者が業務推進課の回答に対する評価・コメントを入力できるようにしています。

このフィードバックを集計し、業務推進課で対応の振り返りや改善の参考にしています。
業務推進課の振り返り・改善が迅速に行われることで、各部署へ提供する価値がより向上しています。
「カスタマインは画面を作れるのがいいですね。ユーザー視点で直感的な導線設計が可能なので、いろいろな使い方ができると思っています」
名刺読み取りアプリ(生成AI活用)
さらに、名刺読み取りにはカスタマインの「やること:OpenAI を画像付きで呼び出してテキストを生成する」を活用し、生成AIを取り入れています。
展示会で交換した名刺の写真を生成AIに読み取らせ、プロンプトで指定した13項目についての結果をカンマ区切りで回答させています。その13項目の結果が、各フィールドに入力されます。

「プロンプトは何度も試行錯誤し、余計な項目が入ったり誤認識された場合はさらにAIに推敲させるなど改良を重ねた結果、実用的な精度にまで高めることができました」
以前は展示会の際に有償で名刺読み取りサービスを契約していたこともありましたが、このアプリによってその必要がなくなりコスト削減も実現しています。
効果:ペーパーレス、時短、コスト削減。現場に根付いたカイゼン文化
現在、全社員154名が533アプリを活用し、ほぼすべての業務でkintoneが使われています。
kintone認定アソシエイト資格やアプリデザインスペシャリスト資格も延べ9名が取得し、各部署でkintone担当者を中心に業務改善が進められています。
かつて別のシステムの管理やJavaScriptによるカスタマイズによって属人化が課題となっていましたが、自分たちで使える・カイゼンできるようになり、この課題は解消されました。
他にも、kintoneやカスタマインの活用によって、以下のような効果が出ています。
- ペーパーレス化
紙からデジタル化したものとして、年間で900件ほど提出されていたカイゼン提案書、400件ほどの不具合連絡票、6,000件×工程数が必要となる工程検査記録など、大量の紙が削減されました。 - 作業時間の削減
基幹システムやkintoneでの転記の作業がなくなりました。また、展示会の集計を自動でできるようにしたことで、1回15分〜かかっていた集計が数秒で完了するようになるなど、大きく作業時間を削減できました。 - コスト削減
展示会の際など単発で有償契約していたサービスをkintoneに置き換えることで、都度契約の必要がなくなりました。コストも契約の手間も削減されています。
「最初こそ抵抗感や不満があったkintoneですが、事例発表会や勉強会を開催することで浸透していったと思います。今では私が主催する勉強会だけでなく、有志で『カスタマインの歩き方』を読んでカスタマイズを発表するなど、継続して勉強会が開催されています。経営層がツールの導入・活用に積極的であること、ボトムアップ型でカイゼンの文化があったことが、kintoneの自分たちでアプリを作って業務を変えていける点にマッチしたんだと思っています」
単にツールを導入して終わりでなく、社員一人ひとりが主体的に業務改善に取り組む文化が出来上がったことが、最大の成果です。
こうして業務の効率化や情報共有のカイゼン、デジタル化の推進を着実に進めることができています。

展望:「自分たちで変える」はこれからも。次はAIと基幹の進化へ
今後の展望として浪岡氏は、4つ挙げています。
一つは、すでに名刺読み取りなど一部で使用している生成AIの活用拡大です。
kintoneをデータ共有のハブとして位置づけ、蓄積した情報をもとにAIを活用することで、さらなる業務効率化を実現したいと考えています。
二つ目は、協力工場やお客様との情報連携をさらに強化していくことです。
現在、協力工場とのやりとりはメール・FAX・電話など従来の手段に依存しており、情報共有の効率化が課題となっています。kintoneに蓄積している情報を活かして、必要な情報をリアルタイムで共有できる仕組みを整えていく予定です。
三つ目は、kintoneを中心とした業務基盤の再構築に取り組んでいます。
特に、カスタマイン導入前から計画していた受注入力業務をkintoneで完結させることに注力しています。これまでさまざまなシステムをまたいでいた受注情報の入力をkintoneに集約し、業務の標準化と効率化を目指しています。想定以上に多くのマスタデータ・関連テーブルの整備が必要となり、課題も多い状況ですが着実に前進しています。
最後に基幹システムのリプレースも大きなテーマのひとつです。これまで使い続けてきたシステムの老朽化に伴い、kintoneとの連携を前提とした新たなシステム基盤の構築を計画しています。受注業務を含む入力業務から基幹まで、データが一貫して流れる仕組みを作ることで、社内全体の情報共有や業務効率を大幅に改善する狙いです。
同社の強みは、現場の声を活かし自分たちで業務を変えていける文化にあります。
これまで積み重ねてきた業務改善の経験を土台に、ツールの活用にとどまらず、組織全体のさらなる進化を見据えた取り組みを続けていきます。
取材2025年2月