みちのく伊達政宗歴史館様 事例紹介

予約管理をExcelからkintoneへ移行 最新の予約状況を共有可能になり受付の負担も軽減

【課題】事業多角化を進めた結果、予約管理が煩雑に

 風光明媚な松島湾を望む好立地に、1984年に開館したのがみちのく伊達政宗歴史館です。蝋人形を使って再現した25の場面で、伊達政宗の生涯を振り返ることができます。併設の売店では伊達政宗に関係する商品のほか、松島および仙台の土産物も販売しています。NHK大河ドラマで伊達政宗が取り上げられた1987年には、年間約90万人が訪れるほどの人気を博しました。「15年程度で償却、閉館する民間博物館が多い中で、当館は伊達政宗公の人気にもあやかり、35年以上も営業を続けています」と、みちのく伊達政宗歴史館で常務取締役を務める奥山 完爾氏はその歴史を誇ります。 

みちのく伊達政宗歴史館 常務取締役 奥山完爾氏

 みちのく伊達政宗歴史館を支えているのは、松島観光のニーズを求めた経営の多角化と営業努力です。博物館だけに頼らずトリックアートなどの企画展示や、カフェ、かき小屋などの飲食スペースも充実させてきました。しかしこの経営多角化が、受付事務の負担を高めることになりました。「博物館と土産物店だけであれば来場時間や人数はアバウトでよかったのですが、飲食店はお客様の入れ替わりタイミングや人数を正確に把握しなければなりません」と、奥山氏はその違いを説明してくれました。従来は、電話やFAX、メールで予約を受け付けていました。電話で受け付けた予約は、手近な紙にメモをとり、それらとFAX、メールの内容をExcelに転記してまとめたものを印刷して駐車場、飲食スペースに配っていました。この方法では、各自が持っている紙の情報が最新かどうかわからないという課題があったと、同社の堀内 綾氏は言います。受付は基本的に2名で担当しており、電話で予約変更を受けても、FAXが届いても、すぐにExcelに記入できる訳ではありません。手が空いた時間にExcel に転記するので、手元のメモやFAXとExcelの情報との間にタイムラグが生じてしまっていたのです。

みちのく伊達政宗歴史館 堀内綾氏

 このタイムラグをなくすために、常に最新の予約情報を共有できるシステムが必要だと堀内氏は考えました。しかし、駐車場の案内係や飲食店の現場では印刷した紙を見ながらの方が作業しやすいため、完全なペーパーレス化は業務の実態に合いません。「できるだけ業務フローを変えずに転記作業をなくしたいというのが、一番の要望でした。」と、堀内氏。人的ミスを減らしつつ、受付と駐車場、飲食店で最新の情報を共有する方法を模索したそうです。

【選定のポイント】運用の手間がなく、開発スピードも速いkintoneとgusuku Customine

 飲食担当の部長からもシステム化を勧められた堀内氏は、近隣の先駆者を参考にすることにしました。同じ松島で飲食と土産物店を営み、来店予約をシステム化している企業があったのです。しかしその事業者が利用していたのは、「思いのほか大がかりなシステムで、想定している使い方に見合わないもの」でした。導入コストも高く、OSをバージョンアップするたびに改修が必要で、利用にかかる手間も大きすぎました。もっと簡単に導入できて、自分でシステムの面倒を見る必要もない解決策がないものか、堀内さんは周囲に相談しました。そうした相談先のひとつに、クラウドインテグレータのヘプタゴンがありました。

株式会社ヘプタゴン 代表取締役社長 立花拓也氏

 クラウドなら導入のハードルは低く、自身でシステム運用を考える必要もありません。数あるクラウドサービスの中からお勧めされたのは、ヘプタゴン社内でも使われていたkintoneでした。プログラミング知識がなくても、必要な要素をドラッグ&ドロップで配置するだけでアプリを作れるという特長を活かし、ヘプタゴン社内ではエンジニア以外にも使われていました。実際に画面を見た堀内さんも「そんなに難しくなさそう」とハードルの低さを感じたそうです。

 一方で、「手軽そうではあるけれど、自分たちが求めるシステムを作ることができるのか」という不安も感じたと言います。しかしヘプタゴンはそこにも答を用意していました。アールスリーインスティテュート(以下、アールスリー)が提供する「gusuku Customine(グスク カスタマイン)」とkintoneの組み合わせを提案したのでした。

 本来ならkintoneアプリのカスタマイズにはJavaScriptの知識が求められますが、gusuku Customineを使えばGUIだけでアプリをカスタマイズできます。見た目のカスタマイズだけではなくkintoneの機能を補うように様々な処理を追加できるので、kintone単体では実現できないシステムを作れます。

 ヘプタゴンは様々なシステム開発の経験を持っており、JavaScriptでカスタマイズするという選択肢ももちろんありました。それでもgusuku Customineが選ばれたのは、GUIで機能を組み合わせてアプリを作るという手法がkintoneと相性がよく、高いスピード感と低い開発コストを実現できるのが理由でした。

【運用と効果】Excel転記がなくなり、各部署で最新の予約状況を共有可能に

 どのようなシステムにしたいか、打合せを始めたのは2019年春のこと。開発中の画面を見ながら何度かのフィードバックを経て、同年8月にはkintoneとgusuku Customineで構築した予約システムが完成、納品されました。要件が決まってから完成までにかかった実質的な開発期間は1ヵ月程度と、目論見通り、gusuku Customineを使うことで短納期開発を実現できました。

 かき小屋の繁忙期である11月までに新システムになじんでおきたいと、9月にExcelからkintoneへの移行を行いました。「印刷して手元に持っておきたいからExcelと併用しようという声も社内にはありましたが、あえて全面切り替えを選びました」と言う堀内氏。kintoneの情報とExcelの情報との時間差が残ってしまうと、システム入れ替えの効果が薄れると考えての選択でした。代わりに、Excelでの表示に慣れていた従業員に負担をかけないよう、画面レイアウトは以前のExcelのものをできる限り再現しました。印刷しても見慣れたレイアウトを保つことができました。

 新しいシステムでは、それぞれ自分に関係する予約情報を常に最新の状態で確認できるようになりました。転記や印刷のタイミングにより情報に行き違いが生じていたExcelでの管理とは違い、最新情報を確実に把握できます。また部署ごとに注目する情報が異なるため、売店用一覧、食事用一覧、博物館用一覧など、それぞれの部署向けに情報を絞り込んだ画面も用意しました。

【今後の展望】会計など社内へのkintone横展開にも意欲的

 予約受付や予約内容の変更をほぼリアルタイムで共有できるようになった、みちのく伊達政宗歴史館。受付のオペレーションでもっとも大きく変わったのは、情報を即座に検索できるようになったことです。懇意にしてくれる旅行会社からは、電話で「昨年と同じ内容でお願いします」と言われることも珍しくありません。以前なら電話のあとで、前年の予約情報を探して確認しなければなりませんでした。しかし今はその場で旅行会社名を検索、前回の注文内容を確認しながら対応できます。堀内氏は「旅行会社へのサービスは確実に向上している」と語ります。

 kintoneの操作にもなじんできて、より幅広い活用に向けた検討も始まっています。中でも堀内氏が興味を寄せているのは、精算や会計への活用です。「売り掛けや団体旅行客向けのクーポンなど、現金以外での精算もあります。これらを一元的に管理できれば、売上が見えやすくなるのではないかと期待しています」と言う、堀内氏。土産物販売においては店頭販売だけではなく、団体旅行客がバスの中で事前に土産物を選んで注文することもあり、精算だけではなく買物方法も多岐にわたります。「車内販売の個数が事前にわかれば、対応時間を短縮できるのではないか」と、堀内氏はkintone活用の場を広げることに積極的です。入力画面を用意してスマートフォンなどで車内から事前に注文してもらえれば、土産物店での対応が早くなり、なおかつ抜け漏れも減ることが期待されます。

 このようにkintoneの横展開に対して前向きになれるのは、開発スピードの速さを実感したからです。kintoneを使えば、要望に対してスピーディに画面を作成して要件を共有できます。さらにgusuku Customineを使って機能を組み込むことで、アプリ開発全体のリードタイムを大幅に短縮することが可能です。クラウドやノーコードといった最新技術を活かしながら事業の展開するみちのく伊達政宗歴史館の姿は、進取の精神をもって彼の地を治めた伊達政宗とも重なって見えました。