東急リバブル株式会社様 事例紹介

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ベテラン社員の知見をkintoneで可視化。8万件の顧客データを一元管理し、業務量が1.5〜2倍になっても対応できる基盤を構築

東急リバブル株式会社
流通事業本部 契約管理部 関谷 様
太田 様

東急リバブル株式会社 保険事業課では、不動産契約に伴う火災保険や地震保険に関する業務を行っています。近年、保険の最長契約期間が短縮されたことにより、「火災保険の2025年問題」と呼ばれる保険の更新(保険の更改)業務が従来の1.5〜2倍に膨らむ問題に直面。この課題を解決するため、サイボウズ社のkintoneとアールスリーによるアプリ開発で、書類やExcelに依存していた業務を効率化されました。今回は、保険更改業務を担当する関谷様と太田様に、導入の背景とその効果についてお話を伺いました。

「火災保険の2025年問題」で保険の更改件数が1.5〜2倍に増加

Q:まずはじめにアプリを企画した背景を教えてください。

関谷様

東急リバブルの保険事業課では、損害保険会社の代理店として不動産契約に伴う火災保険・地震保険の関連業務を行っています。主な業務は、不動産売買時の新規契約と、その契約期間満了時の更新手続き(更改)です。アプリを企画した背景には、大きく3つの課題がありました。

関谷様

1つ目の課題:保険契約期間の短縮による業務量の急増
保険の最長契約期間が10年から5年に短縮される「火災保険の2025年問題」により、更改業務が従来の1.5〜2倍に増加することが事前に分かっていました。これまで、更改業務は勤続20年以上のベテラン社員2名(太田・笠原)が中心となって対応してきましたが、さすがにこれまでのやり方では限界が見えていました。

2つ目の課題:顧客情報が点在し、問い合わせ対応に時間がかかる
当時、顧客データベースがなく、情報は複数の場所に分散していました。お客様から問い合わせがあった際には、紙の申込書ファイル、顧客情報をまとめたExcel、クレーム履歴のスプレッドシート、損害保険会社のシステムなどをすべて確認する必要があり、対応に時間がかかっていました。

3つ目の課題:属人化により、新任者の早期戦力化が難しい
保険更改業務は経験や勘に頼る部分が多く、業務が属人化していました。異動者や新任スタッフでもすぐに稼働できる仕組みが求められていました。

自分たちで変えられる部分から着手
保険更改業務には、損害保険会社のシステムや紙の申込書など変更が難しい部分も多くあります。しかし、Excelやスプレッドシートで管理している部分は改善余地があると判断。まずは自分たちで変えられる領域から効率化を進めることにしました。

保険更改業務で使っていた書類やファイル

業務ツール内容kintoneによる改善対象
更改顧客リスト損害保険会社から毎月データで受領×
申込書内容確認後、お客様に郵送×
宛名シール郵送用ラベル
案内状保険更改手続きの案内文書
申込書ファイル控えを更新日順にファイリング×
損害保険会社のシステム契約内容を閲覧可能(3種類)×
顧客情報8万件超のデータをExcelで管理
お客様対応記録電話内容を付箋・Excel・スプレッドシートで記録
1ヶ月分の申込書の控えをとじているファイル。お客様からの問合せ内容を付箋やExcelの切り抜きを貼り付けることで記録していた

業務をkintoneで自動化し、誰でも同レベルで仕事ができる仕組みを作りたい

Q:保険更改業務の増加にまつわる問題を、どのように解決していったのでしょうか?

太田様

保険更改業務の急増が見込まれる中で、DX推進部に相談したところ、すでにお客様相談センターやアセット事業本部などで活用していたkintoneでの業務改善を提案してもらいました。開発については、他部署でも実績のあったアールスリーに依頼することになりました。

太田様

アールスリー 井上

DX推進部様からご相談をいただき、プロジェクトがスタートしました。

ご要望としては、

  • 更改処理の業務量が急増するため、仕組み化したい
  • kintoneで業務をできる限り自動化したい
  • 紙で残す必要のないものはデータ化して管理したい
  • 組織変更があっても、誰でも同じレベルで業務を行えるようにしたい

というものでした。

これらを実現するため、2024年7月にプロジェクトを開始。最初の3カ月はアプリ設計と業務理解に重点を置き、その後、実際のkintoneアプリ開発に着手しました。

8万超の顧客情報をkintoneでデータベース化し、ベテラン社員の技も再現

Q:完成したアプリについて教えてください。

関谷様

8万超の顧客情報をkintoneでデータベース化
8万件を超える顧客情報を、kintoneでデータベース化しました。これまでExcelで分散管理していた情報を一元化できた点が、今回の最大の成果です。まず、既存の8万数千件の顧客データをkintoneに取り込み、以降は損害保険会社から毎月届く更改リストをアップロードする運用に変更しました。1レコードが1顧客に対応しており、基本情報・契約中の保険内容・過去の問い合わせ履歴などをひとつの画面で確認できます。また、顧客とのやり取りや対応履歴をkintoneに残せるようになったことで、問い合わせがあった際には検索機能で即座に情報を参照可能になりました。以前は、申込書の控えに付箋でメモを残し、その資料を探し出して対応していたため、現在は業務スピードが格段に向上しています。

保険事業課のkintoneトップ画面

顧客情報のレコード

業務に合わせて最適な形でデータを抽出できる「データ一覧」
gusuku Costomineを用いて、保険会社から提供された更改リストを業務で使いやすい形に加工。kintoneの一覧機能を活用し、取り込んだ更改リストのデータを業務内容に応じて最適な形に分類できるようにしました。たとえば、保険の更改資料を送る際に使用する送付状用に4パターン、督促状用に3パターンの一覧を設定。さらに、委託先への業務仕分けに使う一覧など、さまざまな用途に対応したデータパターンをkintone上で区別して管理できるようにしています。これらの一覧はすべてワンクリックで参照可能です。以前のようにExcelを開いて条件を指定したり、データを手作業で加工したりする手間がなくなりました。

月1,500件前後の更改手続きを行う。業務パターンに合わせたレコードをクリックするだけで一覧表示できる

ベテラン社員の経験に頼っていた業務を、kintoneで再現・自動化
これまでベテラン社員の経験と勘に頼っていた業務フローの一部を、kintoneで再現できるようになりました。たとえば、損害保険会社から毎月届く保険更改リストには、保険事業課が担当する案件と委託先が担当する案件が混在しています。そのため、受け取ったリストを「サブコード」と呼ばれる番号をもとに仕分ける必要がありました。これまでは、600〜1,000件/月のデータを、サブコードを記憶しているベテラン社員2名が約1時間かけて手作業で仕分けていました。しかし、kintone導入後は、ボタンを一つ押すだけで自動的に仕分けが完了。これまでベテランだからこそ可能だった“早業”が、誰でも一瞬で実行できる仕組みへと変わりました。

損害保険会社から受け取ったデータは「自動仕分け用」一覧に格納され、自動仕分けボタンを押すと代理店対応か委託先対応かの仕分け処理が実行される

案内状の作成をkintoneで自動化
保険の更新書類をお客様へ送付する際には、同封する案内状や宛名ラベルの作成が欠かせません。これまでは、更改リスト(数百行におよぶExcelデータ)を手作業 で加工し、Wordの差し込み印刷機能を使って出力していました。kintone導入後は、このデータ加工と案内状への差し込み(氏名・更新日・返信期限など)の入力を自動化。
特にこれまで人力で行っていた「顧客データベースと当月の更新データの照合」の工程が自動で完結するようになり、作業時間を大幅に削減できました。

kintoneアプリでお客様一人ひとりの案内状を出力できる

     

督促業務をkintoneで効率化
保険更新のご案内後、すぐにお返事をいただけるお客様は全体の約4割です。そのため、残りのお客様には2回の督促を行う業務フローを設けています。これまでは、督促の進捗をExcelで管理しており、リスト抽出に時間がかかるうえ、督促漏れが発生することもありました。現在は、お客様から返信があった際に返信日をkintoneへ入力。返信日が未入力のレコードを自動で抽出し、督促対象を即座に把握できるようになりました。その結果、リスト作成にかかる時間を大幅に短縮できたほか、督促漏れの防止にも効果があり、管理精度が大きく向上しました。

督促案内の対象レコードを抽出する画面。右上で案内状や宛名シールなどのパターンを選び、帳票の一括出力が可能

増え続ける更改処理に対応できる業務基盤をkintoneで構築できた

Q:アプリの導入効果について教えてください。

関谷様

年々、更改件数が増加する中で、業務を安定して回せる基盤が整ったことが最大の成果です。現在は、申込書を送付したお客様からの問い合わせ内容をkintoneに入力している段階ですが、今後1〜5年データを蓄積していくことによって、過去の履歴を検索できるようになり、より大きな効果を実感できると考えています。

太田様

完全ではありませんが、今では申込書の控えとkintoneがあれば業務を進められる状態になりました。以前のように、複数のファイルを開いて顧客情報を探す手間が減り、対応スピードが向上しています。

また、私も笠原も子どもがいるのですが、以前は他の人に仕事を引き継ぐのが難しく、なかなか休みづらい状況で大変でした。kintoneで業務がシステム化されたことで、仮に異動や退職などがあってもスムーズに引き継げるようになり、安心して働ける環境づくりにもつながっています。

経験や感覚で行っていたノウハウを、開発を通して“見える化”できた

Q:開発の様子についても教えてください。

関谷様

太田と笠原は20年以上にわたり保険更改業務を担当していますが、これまで自分たちの仕事を可視化する機会はほとんどありませんでした。今回の開発を通して、経験や勘を頼りに行っていた業務ノウハウを言語化・可視化できたことは、会社にとって大きな成果だったと思います。また、開発の過程でアールスリーから「この作業は本当に必要ですか?」と問いかけられることが何度もありました。その対話を通じて、従来の業務フローの中で不要な工程を見直し、省くことができたのも大きな収穫です。

太田様

開発時は、アールスリーの渡邊さんに業務手順を細かく説明し、それをシステム化していただきました。保険更改業務は社内でも理解が難しい業務なのですが、まったく異なる業種のアールスリーの皆さんが、私たちの話を丁寧に聞いて理解してくださったのがとても印象的でした。説明が分かりづらい部分も多かったと思いますが、噛み砕いて整理し、最適な形に落とし込んでくださり感謝しています。

アールスリー渡邊

私はいただいた業務フローをもとに、kintoneアプリ全体の設計を担当しました。今回のアプリのポイントは“目に見えないところ”です。これまで人の判断に頼っていた処理をプログラムに置き換えることが目的のひとつでした。そのため、感覚的に行われていた作業を定義する必要があり、開発中は多くの質問を投げかけながら要件を明確化していきました。太田様や笠原様の経験に基づく工程は非常に複雑でしたが、それをボタンひとつで完結できるようにするため、アプリの裏側では複数の条件分岐を組み合わせています。一方で、利用者にとって使いやすいよう、画面上ではそうした複雑さを感じさせない工夫を施しました。

アールスリー勝村

私は、ノーコードでkintoneをカスタマイズできる「gusuku Customine」を使ってシステムの裏側の処理の実装を担当しました。特に委託先への業務振り分けを自動化する処理では、複数の条件を組み合わせる必要があり、手作業では非常に負荷が高い作業だと感じました。今回、これまで経験に頼っていた業務をシステム化するお手伝いができたことを、とても嬉しく思います。

金額記入済みの振込用紙をkintoneから出力するプロジェクトが進行中

Q:kintone活用において今後の展望があればお聞かせください。

関谷様

現在、地震保険の更改業務において、金額が記入済みの銀行振込用紙をkintoneから出力できる仕組みの開発を進めています。これまでは、お客様に振込金額を手書きで記入いただく形でしたが、記入の負担や金額の記入誤りといった課題がありました。このプロジェクトでは、kintone上のデータをもとに振込金額を自動で反映させた振込用紙を出力できるようにし、お客様の利便性向上と事務作業の効率化を目指しています。
アールスリーには柔軟に対応いただいており、今後も協力しながら改善を進めていく予定です。

アールスリーとの開発は、第三者の視点で業務を見つめ直す貴重な機会

Q:最後に、アールスリーのkintone開発サービスを検討中の方にメッセージをお願いします。

関谷様

現場ではどうしても属人化が進んでしまうことがあります。長年の慣習やExcel管理が根強く残っているケースも多いですよね。だからこそ、第三者の視点で業務を見直してもらえる機会はとても貴重だと感じました。自分たちの中では当たり前になっていた無駄や非効率を、外からの目で指摘してもらうことで、初めて気づけることがあります。アールスリーの皆さんは、他社での経験や知見を活かしながら、私たちの業務フローを一緒に洗い直してくれました。そのプロセスが、業務全体の改善につながる大きなきっかけになったと思います。

貴重なお話しをありがとうございました。

取材2025年10月


アールスリーでは、本案件のようなkintoneアプリの開発や内製化に繋がる構築支援サービスをメニュー化し、2024年4月に「キミノマホロ for kintone」としてリリースいたしました。作業内容やメニューごとの価格体系を載せていますのでぜひホームページでご覧ください。