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営業部が3ヶ月で受注管理システムを内製!現場DXを加速させたカスタマインの底力


株式会社ズコーシャ
IT事業部 次長 営業担当 白石 恒士 様
営業部 事務担当 仲島 いづみ 様
営業部 事務担当 木戸 薫 様
営業部 事務担当 佐伯 実佑 様
株式会社ズコーシャは、北海道帯広市に本社を置く総合コンサルタント会社です。1959年に「北海道測量図工社」として設立され、現在は「農業・環境・まちづくり」×ITをテーマに、測量・調査・設計・IT事業など幅広い分野でサービスを提供しています。
特に農業支援や環境保全、地域社会の発展に力を入れており、北海道十勝地方の雄大な自然や広大な農地を活かしながら、地域に根ざした事業展開をしています。また、最新技術も積極的に導入し、ITとコンサルタントの融合による課題解決にも注力しています。地域社会に貢献する姿勢が評価され、60年以上にわたり信頼を集めている企業です。
同社で長年利用してきたレガシーシステムの老朽化が限界を迎えた時、同社はkintoneとgusuku Customine(以下、カスタマイン)の活用を決断しました。驚くべきことに、受注管理システムの内製化を、IT部門ではなく営業部のメンバーが主導し、わずか3ヶ月で成し遂げました。
今回は、IT事業部の伴走のもと、現場主導で進められた劇的な業務改革の軌跡について、IT事業部 次長 営業担当 白石恒士氏と営業部の事務担当である仲島いづみ氏、木戸薫氏、佐伯実佑氏にお話を伺いました。

■事業の多様性が阻むシステム刷新。現場の「気づき」が停滞を打破した
ズコーシャにおけるkintoneの歴史は2017年に遡ります。当時、総合科学研究所の一部門が分析業務の効率化を目的に導入しましたが、活用は局所的であり、全社へ広がることはありませんでした。2020年に全社的なDX推進担当として着任した白石氏も、現場での活用を模索していましたが、浸透は思うように進みませんでした。
その一方で、営業部では深刻な問題が進行していました。10年以上利用してきた古い受注管理システムがサーバーの老朽化と保守の限界に直面しており、刷新は急務でした。ただ、なかなか後継システムが見つかりませんでした。ズコーシャの広範な事業領域をカバーできるパッケージソフトは市場に存在しなかったのです。
特に、公共事業を多く手がける同社にとって、入札参加資格の管理は極めて重要です。資格申請のためには、受注した案件一つひとつを「測量業務」や「設計業務」といった業種ごとに正確に分類・集計する必要があります。この複雑な管理を実現し、かつ自社でマスターデータを柔軟にコントロールできるシステムが求められていました。
転機となったのは、社内で定期的に開催される技術発表会でした。当時のkintone管理者が総合科学研究所での事例を紹介した際、それを聴講していた営業部の仲島氏が可能性を見出しました。
「その時の発表で自由に好きなアプリが作れると聞いて、自由度の高さが魅力的だと感じました。弊社は事業領域がとても広いので、使いやすい市販のシステムが見つからなくて、kintoneならいけるかなと、ピンときました」(仲島氏)
仲島氏はすぐに行動を起こしました。自らサイボウズ社より資料を取り寄せ可能性を確信すると、同僚の木戸氏、佐伯氏と共に検討を開始。会社側の承認を得るために、セキュリティチェックリストやリスクアセスメント分析表まで自発的に作成し、準備を進めました。
この現場の熱意に、DX推進を担う白石氏が合流します。システム開発をしたことのないメンバーによる現場主導での開発に対し、セキュリティや管理体制が課題として挙げられましたが、白石氏が技術的なサポートと全体管理を引き受けることで、プロジェクトは正式に承認されました。そして、2022年11月末、営業部とその他の関係者約40名でのkintone導入が決定しました。目指すは翌年2月の稼働開始で、残された時間はわずか3ヶ月でした。
■「画面が長すぎる・帳票が欲しい」課題を即解決。カスタマインが解放した現場の開発力
3ヶ月という極めてタイトなスケジュールの中、開発は営業部の主導で進められました。業務を熟知したメンバーが開発し、白石氏がサポートするという体制です。長年の経験から、仲島氏たちの頭の中には理想のシステム像が明確に描けていました。
しかし、kintoneで形にし始めると、すぐに壁に直面しました。必要な項目を並べた結果、フィールド数は270項目にも及び、画面が際限なく縦長になってしまいました。更に受注額を確保しなくてはならない営業部にとっては、絶対に必要な受注状況に関する帳票が出力できない事も問題となりました。「これでは入力が大変で、現在の受注状況を纏めた帳票も出力できない!」と、この課題を白石氏に相談したことが、カスタマインとの出会いでした。
白石氏は、kintoneを全社に展開する上で、基本機能だけでは現場の要望に応えきれないと見越しており、カスタマインを含む様々なプラグインや連携サービスを調査していたのです。その中で、カスタマインを選択した理由は機能の豊富さでした。
「kintoneでやりたいことを実現するためには、複数のプラグインを組み合わせたり、自分でJavaScriptを書いたりと、色々な手段があります。ただ、その分管理が大変になるのでカスタマインという一つのサービスでなんでもできる方が、わかりやすく社内でkintoneを広められるなと感じました」(白石氏)
白石氏がノーコードにこだわった背景には、過去の反省もありました。最初にkintoneを導入した部署ではJavaScriptを多用して開発した結果、システムがブラックボックス化し、改修には手間と時間が掛かるものになっていたのです。そのため、属人化を防ぎ、誰でも手早くメンテナンスできる環境を作ることが重要なテーマでした。
ノーコードのカスタマインを使うことにより、JavaScriptなどの知識のないメンバーの手で縦長画面の問題を「タブ表示」機能で解決しました。さらに、会社から求められていた帳票出力も、使い慣れたExcelでテンプレートを作成し、そのままExcel形式で出力できる仕組みによって現場のニーズに沿って実現できました。
開発は加速度的に進みました。実務担当の佐伯氏は、旧システムで感じていた「いずい(北海道の言葉で「しっくりこない、もどかしい」の意)」部分を洗い出し、要望を伝える「わがままを言う係」を担いました。その要望を仲島氏がカスタマインで即座に形にしていきます。そのスピード感は凄まじく、木戸氏は「テストやデータ移行の準備が追いつかないほどだった」と振り返ります。
プログラミング知識を持たないメンバーが、理想のシステムを実現していきます。カスタマインは技術的なハードルを劇的に下げ、現場の開発力を飛躍的に向上させたのです。
「私はJavaScriptは書けませんが、カスタマインなら日本語で自分がやりたいことを順番に選んでいくと、見事に実現できるのは大きな感動でした。コードを勉強していない私のような人が、本来、絶対にできなかったはずのことができるというのは、すごく画期的だと思いました」と仲島氏は語りました。
■現場の「面倒くさい」を徹底排除。カスタマインが支える緻密な業務設計
わずか3ヶ月で完成した受注管理アプリ「入札大臣」には、現場の知恵とカスタマインの工夫がぎゅっと詰まっています。フィールド数が270項目を超える巨大なアプリでありながら、ユーザーが迷わず操作できるよう、細部まで作り込みました。
まず、膨大な項目を整理するタブ表示は、単に情報を分類するだけでなく、業務の流れに沿って動的に制御しています。例えば、自社が落札した場合にのみ、その後の「受注処理」に関するタブが表示される仕組みです。不要なタブを非表示にすることで、誤入力を防ぎ、ユーザーが次に何をすべきかを明確にナビゲートしてくれます。

入力制御とエラーチェックも徹底しています。同社の営業拠点は複数に分かれており、拠点ごとに業務のやり方が微妙に異なるケースがあります。旧システムではエラーチェック機能が十分ではなく、年度を間違えて入力するなどのミスが頻発し、月次締めの際には多大な確認作業が発生していたといいます。
新システムでは、カスタマインを用いて緻密な入力チェックを実装しました。整合性が取れないデータは保存できないようにして、月締め後は過去のデータが変更されないようにする制御も加えました。これらの機能は、ミスを防ぐだけでなく、業務フローの標準化にも寄与しています。
現場の「面倒くさい」を起点とした改善も随所に見られます。例えば、Webで公開される入札結果の転記作業です。従来は手作業で行っていましたが、仲島氏はカスタマインの機能を活用し、結果が記載されたCSVファイルをドラッグ&ドロップするだけでアプリに反映される仕組みを実装しました。

また、受注内容に変更があるたびに手動で作成していた社内通知メールも、ミスの温床となっていました。この課題に対しては、アプリのデータを元に、金額変更や工期延長などの変更内容に応じたメール本文を、自動生成する機能を実装しました。複雑な条件分岐が必要で手間がかかったものの、カスタマインで実現したことで、メール作成の手間とミスが大幅に削減されました。
帳票業務の効率化も目覚ましいものがありました。従来、発注者へ提出する着手書類や技術者の経歴書は、システムに入力済みの情報であるにもかかわらず、Excelに再度手入力したり、別管理のAccessデータベースを参照して作成していました。
現在は、kintone上のデータからボタン一つで必要な書類が出力されます。カスタマインはExcelで出力レイアウトを作成するため、多様なフォーマットに対応でき、Excelの関数をそのまま利用できる点も現場から高く評価されています。


■広がる活用範囲と、属人化を防ぐ「日本語」での開発
「入札大臣」の成功を皮切りに、kintoneとカスタマインの活用範囲は着実に広がっています。その一つが、入札カレンダーアプリ「ホワイトボード」です。
元々入札のスケジュールは何枚ものホワイトボードにカレンダー形式で書き出すというアナログな方法で管理を行っていました。それをカスタマインの定期実行処理機能である「Job Runner(以下、ジョブランナー)」を活用し電子化したものが「ホワイトボード」アプリです。
入札は同日同時刻に集中することがあり、担当者はその日の作業ボリュームを把握する必要がありました。「繁忙期には1日に30件程になることもあります。あらかじめ、ボリューム感を知りたかったんです」と仲島氏は語ります。
この課題を解決するため、「入札大臣」のデータをジョブランナーで日付ごとに集約し、「ホワイトボード」に連携する仕組みを構築しました。「ホワイトボード」はカレンダー形式で表示されており、カレンダー上には「8月15日 〇〇市 3件」といった形で表示されるため、その日の案件数が一目で把握できるようになっています。さらに、カレンダー側で入力した進捗状況を「入札大臣」側にフィードバックする双方向連携も実現しています。


また、取材時にはまだ検討段階だった、主に民間の顧客に向けた分析作業の見積の作成アプリ及び管理アプリ「ミツモルくん」も、後日の聞き取りの際、1か月でほぼ形に仕上がったといいます。
今回は、導入当初はサポート役だった佐伯氏がプロジェクトリーダーとなり、アプリの作成を行いました。
今までは毎年変更される分析単価の管理や、提出管理など、それぞれのエクセルファイルで行っており、同じ内容の2度打ちなども多発し煩雑になっていました。kintoneで管理することにより、1度登録したものはそのまま2度打ちすることなく反映させられます。全ての内容を連携し、一括管理することが出来るようになりました。
また、単価をマスタ化し、昨年度見積の単価を今年度に更新するなどの機能もカスタマインを利用することで実現しました。
法令で定められた分析項目は、毎年同じ時期に実施する必要がある場合が多く、見積を提出する際には「時期が来たことを通知してくれるアラーム機能がほしい」と考えていました。kintoneにはそのような機能が備わっており、短期間で理想に近いアプリを構築することができたといいます。
「今まで理想として掲げていたことがカスタマインを利用することで現実化し、突破口が開けたような感じがします。実用化はこれからですが、今後もより効率化を図れるように工夫して完成に近づけたいです」(佐伯氏)

こうした高度な仕組みを現場メンバー自身が作れるようになったことで、担当者に依存せずに改善を進められるようになりました。カスタマインの設定は日本語で記述されているため、処理内容をメンバー間で共有しやすく、改善のアイデアを出し合う土壌にもつながっています。
「例えば仲島さんが不在の時に、何か変更したいことが発生した場合でも、カスタマインを開けば、どうやって設計したのかが日本語で見ることができます。素人目にもとてもわかりやすく、すごくいいな、と思います」(佐伯氏)
木戸氏も「Excelマクロはどうしても属人化してしまいますが、カスタマインならそんな心配もなく、清々しい気持ちで開発できます。設定ドキュメントも出力できるので、引き継ぎが簡単なのもいいですね」と評価します。誰もが開発に参加し、引き継げる環境こそが、持続的な業務改善の鍵となります。
■「使う人が作る」文化が組織を変える。全社データプラットフォームへの進化を目指して
営業部主導で進められた今回のプロジェクトは、単なる業務効率化やミス削減以上の、本質的な変化を組織にもたらしました。それは、現場の活気と改善意欲の向上です。この一連の取り組みは社内でも高く評価され、営業部は社内表彰制度で表彰されるに至りました。
今後の展望は、この成功体験を全社へと展開していくことです。営業部内に集約された受注データや営業データを、経営判断に活用するための基盤整備が進められています。経営層や他部署のマネージャーがデータを閲覧・分析できる形へと進化させていく計画です。
「今までの、あり物のシステムを使ったり、SEが間に入った伝言ゲームをするのではなく、kintoneとカスタマインがあれば、現場の方々が自分たちで考えたものを自分たちで作ることができます。このように仕事を進められるところが、現場として活気を生むことになっていると思います」と白石氏は語ってくれました。
取材日2025年8月